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世相

2024 正月

  • 2024年01月

世相日本世界感じるままに                                                                    榎本機工㈱ 社長 榎本良夫

 

「インド・チキン」

 本でシーフード・魚介類を食材にすればザッと2ヶ月くらいは毎日違った物が選択出来ると思っていたが、どっこい調べたところ、世界の海には36,000種類ほどの魚介類が居て、その内の3,600種類ほどが日本の海に居るそうだ。そしてその内の600種類ほどが食材に供されているという事だ。どうも、うなぎや鮎などの川魚は含まれていない様なので、その数はもっと増える。ちなみにこれら魚介類は、おなじみのマグロ、サーモン、サバ、サンマなどの他、エビ・蟹、貝なども含まれている。蒲鉾・はんぺんやカニカマなどの二次加工品も含めればその種類はもっともっと増え、おおまかに、1年365日、日本では毎日違ったシーフード食材を食膳に出す事ができると言う事になる。ついでに、海苔・わかめ・昆布などの海藻類は日本が最も多くの種類を最も多量に食材にしているのではないかと思う。

 インドではザクっと見た所野菜しか食べないベジタリアンとそうで無いノンベジとの比率は半々程度と思う(最近若い人中心にノンベジが増えている)。ノンベジであってもビーフはほとんど食べない、チキンとマトン(羊)で、ポークはあまり好まない。インドで肉と言うと圧倒的にチキンで、ノンベジだと来る日も来る日も食材はチキン、チキン、チキンとなる。

時々、「日本では毎日違った種類の魚介類が数ヶ月も選べるのだ」とからかって居るが、

さすがに昼夜毎日チキンではうんざりしてくる。

レストランでも、牛肉は無く、豚肉もまず無い。エビと魚はあるが多くの場合カレーに入ってしまう。ところでカレーという料理はインドには無く(我々から見ればカレーなのだが)、それぞれの料理にそれぞれの料理名がついている。チキンカレーであればバターチキンとか、野菜カレーであればミックスベジ、オクラカレーであればビンディマサラなど、カレーと言う名称はどの料理にも一切ついていない。インドを植民地としたイギリスがマサラと総称される沢山の種類のスパイスで味付けした辛いインド料理をカレーと総称した事が最初らしく、たとえば日本料理を醤油料理と総称するに似ている。

魚は何の魚か良く分からないが、切り身がカレーに入っていて、サワラとかキハダマグロ、川魚などの白身だろう。インド人に聞いても魚の種類はほとんど知らない。もちろん、ムンバイ、チェンナイやコルカタなど海岸に位置している大都市では話しは変わって、高級インド料理店に行けばエビ・蟹も含めて沢山の贅沢メニューを見つける事ができる。たとえばタンドリープロウンはエビの鬼殻焼きに近い。

 チキンに飽きれば今日はベジ、という事になるが、私はオクラのカレー「ビンディマサラ」が好きなので迷わずこれを選ぶ事になる。

1. ビンディマサラ            2. ビンディマサラとバターチキン 

オクラのネトネトとカレーとのミックスが絶妙な味を醸し出す。2009年に公開され大ヒットしたインド映画「きっとうまく行く(オリジナル題名は3 Idiots、3バカ)」では主人公が友人の家でビンディマサラをごちそうになるシーンが出てくるが、安い庶民料理なのだと思う。

 しかしインド人の多くは、来る日も来る日もチキンか野菜。野菜もニンジン、タマネギ、なす、ブロッコリー、カリフラワー、ポテト、豆類と沢山はあるが、我々日本の様に、今日はとんかつ、明日はすき焼き、次はうな丼、昼はラーメン、天ぷらそば、などと食の楽しみがあるのだろうかと、いつも疑問に思うのである。食事は単に空腹を満たすためだけなのだろうか?今度の週末は奮発して極上の和牛ステーキでも食べに行こうかなどという楽しみがあるのだろうか?食に関するインド人のメンタリティーはまだまだ良く理解できないし、何かこの部分にインド人の行動の謎やヒントが隠されているのでは無いかと思っている。

 

「インド・ベトナム米作り」

圧倒的に多いインドへの出張、それも北から南、東から西へとあちこち。そして昨年何回か出張したベトナム。鉄道利用が望めないので地上移動は車でという事になるが、思わぬ光景に出っくわす事もあるので楽しい。

写真は、インド・ジャムシェドプール近くでの人の手による田植え。

3. インドの田植え風景

同じくハノイ近郊での水牛による耕耘と田植え風景である

4. ハノイ近郊水牛で農耕 5. ハノイ近郊の田植え

牛馬を使った農耕は日本ではかなり過去の風景で、田植えも小学校の課外授業や天皇陛下の皇居の祭事、神社の祭事、家庭菜園以外はもう無くなったと思う。

水の豊富なインドは、北部を除き米の栽培は古来盛んで、多くの人口を養って来た。だからインドは豊であったし、これからも豊でありつづけるのであろうが、広大な大地を耕すには、これからは機械の力を借りる事になるだろう。インドではMahindra & Mahindra(兄弟なので、姓が2つ続く)がトラクターでは最大手。

Sonalika社

6. Sonalika tractor

は弊社のお客様。他インドローカル企業多数。日本からもクボタ、ヤンマー、井関などが進出している。アメリカの John Deereもシェアーを伸ばしている。これらの会社のトラクターや耕運機には多くの鍛造部品が使われているし、トラクターが引っ張る耕耘装置のテイラーの爪(台地を耕す爪)は全量が鍛造品だ。折れたら危険だし、摩耗を防ぐのに刃物の様に硬く無ければならない。これからのインドは鍛造品が広大な台地を耕して行く事になる。多分インド政府は農産物を国家戦略物資の一つとして捉えているはずで、いずれはインドの米が、耕作が思う様に進まないアフリカ諸国への輸出品目の一つとして大きくカウントされて行くのではないかと個人的に想像している。今ウクライナ戦争の余波を受け、アフリカ諸国は小麦の輸入が滞り危機的な状況にある事を思えばなおさらそう思える。

 

「ドイツ・ハノーバーメッセ、EMOショー2023

EMOショーはドイツ・ハノーバーのメッセ会場で2年毎に開催される世界で最も大きな機械装置産業の展示会。あらゆる工作機械、切削工具、油空圧部品、自動装置、プレスなどこの分野をほとんど網羅して居る展示会だ。2023年9月、弊社もコロナ後ようやく出展する事になった。

7. EMO弊社小間にお出でのインド人

初日の前日、小間設営後ローカルサポーターと共に近郊にある風車博物館を訪問した。

8. 風車博物館

世界あちこちにある風車を屋外展示している他、水車もあり、屋内展示場には沢山の模型が展示されている。海面下のオランダでは風車は風の動力で水をくみ出す為に使用されているが、風車の多くは穀物を粉にする為に使われていた。小麦から主食のパンを作る為だ。日本や中国では米をそのまま炊くので粉にする必要が無い。また風車より水車の方が多く、脱穀や、そば粉を作る為などに使われてきた。                                                                                                                                                                風車は風を正面から受けたいので、おおむね年間風向きが最も一定の向きに設置するが、風とてその時々いろいろな方向から吹くので風車も向きを変えたいところだ。ドイツ製の風車でそれを、メカ機構で自動制御する装置があり、その機構構造にずっと見入ってしまった。

9. ドイツの自動制御風車

最近は色々な優秀な電子センサーなる物が簡単安価に入手出来、自動化も手っ取り早くアレンジ出来るのだが、それが無い頃は完全にメカ屋がアイデアをひねり出す必要があった。豊田佐吉の自動織機もそうだ。正面の風車の後ろに90度角度を変えた小さな風車があり、それと風車の土台の歯車が連携して正面の風車を風が正面から受けられる様に自動制御するのである。

ほとんど木材で作られている風車の歯車がまた見事で、もちろんこれも木製で

10. 木製歯車

いずれ消耗する歯は交換ができる様に差し込み式になっている。もっとも木のリングの外周に歯を削り出すより、歯だけ個別に作る方が作りやすいだろう。現在使われている金属製歯車はすべてワンピースの削り出し。こちらは寿命が長いのでこの製法の方が有利なはずだ。

 

水車のついでに、話しは一挙にインドのバンガロールに移動するが、バンガロールの日曜日、地元の科学博物館で鍛冶屋が水車の力を利用する模型が展示してあるのを見つけた。

11. 水車を利用した鍛造作業模型

ヨーロッパの古い鍛造会社はすべて川沿いにあり、初期に鍛造の動力は水力を使っていたはずだと推測していたが、インドで回答が出た。

強い力や動力は、蒸気機関や電気が出てくる前は、風力や水力を利用していた。ところがまた最近風力発電というのが出て来て、世界中あちこちで新しい形をした風車が発電機を回しているのである。

 

EMOは出展者も来場者も中国人が圧倒的に多く、出展者慰労パーティーの予約でさえほとんど中国企業に取られてしまった。国内景気が下降線をたどる中、海外市場に活路を見いだしているに間違い無い。インド人訪問客も多く、弊社小間にも顔なじみのインド人が何人もお出でになった。訪問客に対するフォローアップを継続している。

 

「Raho君、パプアニューギニア」

パプアニューギニア独立国、Independent State of Papua New Guineaが正式名称である。メラネシアにあるニューギニア島の東半分と周辺の島嶼463,000㎢を領有(日本は377,000㎢)、人口はおおよそ900万人、英国連邦王国に所属しているので首長はイギリスのチャールズ国王、その代理となる総督と、行政府の長である首相が居る。

ニューギニア島の西半分はオランダの植民地であったので、戦後インドネシアが領有している。東半分の北はドイツ、南はイギリスの植民地でありパプアと呼ばれた。スペイン人探検家がメラネシア人をアフリカ西海岸のギニアの人達に似ているというので、New Guineaと呼んだ。オーストラリアの北東にとんがっているヨーク岬半島はすぐ近くになる。首都はポートモレスビーで、第二次世界大戦中、山越えして日本軍が攻略を目指した場所である。ここからオーストラリアに攻め込むつもりでいた。多数の兵隊が死んでいるが、結局目的を達する事なく敗退した。パプアニューギニアの西に位置するソロモン諸島にはガダルカナル島などがあり第二次世界大戦中の沢山の戦場が残っている。

熱帯で山岳地が多く農耕には適さず、パームヤシなどが栽培されている。また金・石油・銅が採れ、輸出している。

公用語は英語で、現地ローカル語で北部のトク・ピシン語、南部のヒリモツ語も共通語として使われている。人口のほとんどがメラネシア系の地元の民族で、宗教は90%以上がキリスト教徒。

 まさかパプアニューギニアという国とのご縁ができるとは思わなかったが、昨年12月からRaho君というパプアニューギニア出身の若いスタッフを正社員として雇用する事になった。

12. Raho君              13. Raho君と日本人スタッフ達

きっかけは神奈川県オンラインジョブフェアという日本在住の海外の学生向けのリクルート活動である。WEB企業説明会に弊社が参加し、それを見ての応募だった。昨年3月卒業後、適当な就職先が無かった様だ。

何でも高校生の時、津波の学習の関係でのインターンシップで和歌山の高校に来ており、日本が好きになって東京の専門学校に入学し機械設計を勉強し、卒業した。卒業研究では仲間と空圧シリンダーで動作する空缶プレスを製作している。

パプアニューギニアは火山国で地震もあり、従って津波も現実的にはいつでも起っておかしくないが、縁とは言うが弊社も色々スタッフのバリエーションが増えて来た。

そもそもオンラインジョブフェアは横浜国立大学の教授からの紹介で、横浜国大で開催された「産官学連携人材育成セミナー」での講師を依頼されたり、同大学のインドやパキスタンの招聘学生の工場見学を受け入れたりしていた関係がからんでいる。本来の企業活動のみならず、この様な奉仕的活動も企業にとってひょんな面白い結果を生み出す事になるという事だろう。

Raho君はまず機械加工の基礎をみっちり身につけて欲しいので、現在工場での研修をしている。

 

「Forge Tech India 2023

インド鍛造協会が主催する鍛造の国際会議は2016年にGurgaonで開催され、2回目はアジア地区の国際会議Asia Forgeとの共催として2019年にChennaiで開催、昨年2023年に第3回目がPuneで開催され、弊社もスポンサー参加した。

14. Forge Tech会場            15. Forge Tech 弊社小間

 

初日にはおもだった大手鍛造会社の社長や会長が登壇し、

16. インド鍛造企業経営者達

その中央にはBaharat Forge 会長のBaba Kalyani氏の姿もあった。地元Puneの会社であり、鍛造業ではインドトップである。昨年はNHKのインド特集にも出ていて、「数年後にはインドの防衛産業を全部国産化する」とコメントしていた。インドは軍隊を保有しており、地元Puneの空港は空軍の基地で軍民共用の空港である。従って空港内や飛行機での離着陸時の写真撮影は禁止されているが、飛行機内のアナウンスではPune空港は「Defense air port」と言って「Air force」という言葉は用いていない。

Forge Techのスポンサーはプリゼンテーション参加が出来るが、今回はインドローカルスタッフに「タテアプセッターサーボスクリュープレス」の発表をさせた。

17. プリゼンテーション参加 

会場となったWestin Hotelはちょうど週末にもあったので、ディスコテックが大賑わいだったはずだ。国際会議が終了しタクシー待ちの間、横にあるディスコの入り口は若い男女は長蛇の列。

18. ディスコの入り口

女の子同士では入る事が出来、男女のカップルも入る事ができるが、男の子同士だけでは入れないのだそうで、にわかカップルも待ち合わせて出来ている様だ。スマホのアプリでもあるのだろう。インドではタクシーの支払もスマホ決済で、現金はほとんど使われない。バブル経済に突入したインドはIT産業などの影響で若い男女の収入も増えて週末は存分に遊べる様になったのだろうと思う。

 

沢山の商談チャンスを獲得し、2024年にフォローアップするが、中国からの競合先も多数参加していたので予断は許さない。

 

「世界は残酷」

ウクライナの戦争が継続し終わりが見えない中で、今度はイスラエルとパレスチナの戦争が起こりこちらも終わりが見えないまま毎日民間人が殺害されている。昔から揶揄されている通り、国際連合は単なる井戸端会議で強力な対応が出来ない。世界の警察と自認していたアメリカも昔日の力は無い上に内憂が山積していて、そもそもウクライナとパレスチナは対岸の火事程度にしか見ていない。

 インドのデリー地区での定宿があるGurgaon地区から最近できた丘陵地を通って多くの工場があるFaridabadに行く途中、大きなハヌマン(猿の神様)の像が立っている。

19. ハヌマン像

ハヌマンは、タイやインドネシアにも居て、孫悟空もハヌマンが基になっているらしいが、強い力を持った戦士の神様である。混沌とした世界をその力で鎮めてもらいたい。

 インドはどの国とも与さない等距離外交を方針としていると見られ、その為に国力をまず充実させる事をモットーにしているのだろう。Baba Kalyani氏が述べた様に防衛産業の100%国産化や、農業振興、若者への教育投資もそれら一環であるはずだ。アメリカにも過度に頼りたくないので、IT産業の国内での充実化も推進している。そしてインド企業はインド市場だけを見ているのでは無く、海の向こうの大きなアフリカ大陸や南米市場も視野に入れている。そもそもアフリカでは沢山のインド商人がずっと昔から活躍している。間違いなくこの先10年、20年、世界経済はインドが牽引して行くだろう。今回のレポートはインドばかりになってしまいました。どうしても話題はインドが多くなります。今年は1月早々からBangaloreで開催されるインド最大の機械見本市IMTEXに参加、インド出張からスタートします。

外から見ると日本はのんびりしている様に見えますが、今年1年、皆様のご健闘をお祈り申し上げます。

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