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世相

2023 夏

  • 2023年09月

世相日本世界感じるままに                              榎本機工㈱ 社長 榎本良夫

 

「スマホ」

スマートフォン。パソコンに近い携帯電話。生活する上での必須アイテムとなって久しく、もはやこれが無いと日常生活がスムーズに送れない。すでに携帯電話としての通信装置の領域を大きくはみ出して、テレビモニター、ゲーム、金融機関との連携による支払・借り入れなどと、お金がその場で不要な支払手段、カードや交通機関での多くの認証など、機能はどんどん拡大している。

便利この上無いが、諸刃の剣という言葉通り、片方の便利さのもう片方には多くの問題がある。ゲームに没頭するあまり課金支払がつり上がってしまうのが典型的な実例で、スマホに対する時間が日常生活の上でどんどん増えてしまい、他に使うべき生活時間を侵食してしまっている。読書時間が侵食されている事は大いに憂うべき事だ。

例えば夕食後は一切スマホにタッチしないなど、時間の区分けをして行かなければならないだろう。便利さの反対に位置する刃は、我々の持つ時間をどんどん浸食する怪物である事をしっかり認識しなければならない。

 

「インド、バブル突入

2023年に入り、コロナ禍により3年にわたり停滞したビジネスが一挙に元に戻り始めた。火を噴いたのはインドだ。金曜・土曜の午後7時、デリー近郊の新興都市グルグラム(旧称グルガオン)のレストラン街は人出でごったがえしている。

1.グルがオンの夜

低い周波のディスコの音は外にも響いてくるが、若い男の子4~5人のグループが店に入って行く。幾ばくもしないうちに、今度は若い女の子4~5人のグループが店に入って行く。きっと中では合流してディスコの騒音の中終夜踊りまくるのであろう。いわゆるIT企業を筆頭としたインド企業に勤める若い連中で、親のすねをかじって来ているのでは無いと言う。レストランがどんどんディスコに鞍替えしている。手っ取り早く手間無く稼げるからだろうか。翌朝6時までドンスカ、ドンスカである。

これを見て、30年前の日本の「ジュリアナ東京」をふと思い出した。東京田町の空き倉庫を活用したディスコテックで露出度の高い若い女性がお立ち台と呼ばれる特等席で踊るのが有名だった。ちなみに私は行ったことは無い。帰りにタクシーがつかまらないので、1万円札でタクシーの窓を叩き、これで乗せろ!というのも話題になった。一万円札も乱舞していたのである。

日本の土地の高騰に起因するバブル経済は昭和から平成に変わるあたりのおよそ5年間(1985年から1991年)で、ジュリアナ東京はバブルが崩壊する最後のあたりに開店した最後のあだ花だった。

バブル経済は名の通り実存しないお金が泡の様にどんどん膨れ上がって増え、あらゆる物が投資対象になり、シーマ現象(日産自動車の最高級車シーマ)という言葉ができた通り、高い物の方がどんどん売れた時代だった。

インドはまさにその「バブル経済」に突入しているのでは無いかとふと思った。紛れもなく世界の投資マネーがインドにどんどん流入しているはずだ。ヨーロッパにも向かわず、中国にも向かわず、インドに、であろう。何しろ伸びしろが大きい。実際目論見書を書けば銀行がお金を簡単に融資してくれるという話はしょっちゅう耳にしている。

日本でさえ、バブル経済は5~6年もった。インドは10年くらいもつのかも知れない。

 

「インド、トラック

日本では伸びしろのないトラック生産がインドでは爆発的に拡大している。

それはそうだろう。広大なインド大陸の物流をになうのはトラックだ。鉄道では無い。

さらに建築や道路などインフラ整備もまだこれからで、ここでもトラック需要は際限無い。14億人を超える人口の消費物資や農産物、機械類や自動車などの産業資材を運搬するトラック、道路を作ったり橋をかけたりする土建工事で必要なトラック、トラックの果たす役割はインド大陸においてはとてつもなく大きい。大型トラックはディーゼルエンジンである。それらのエンジン部品の需要も増えるばかりだ。EVでは無い。ミッションや足回り部品もどんどん増える。そして、海の先にはさらに広大なアフリカ大陸が控えている。ここでのトラック需要はより一層大きい。TATAや

2 TATAトラック

Ashok Leylandなどのインドのトラックメーカーはアフリカへの進出も視野に入れているのは間違いないだろう。

 

「インド Auto Expo 2023」

インド最大の自動車部品展である Auto Expoは、本命の自動車ショーと同時にデリーの異なった場所で開催されるが、前回の2020年2月開催の後、コロナ期間中の2022年開催中止を経てようやく本格的にニューデリーのプラガティマイダン国際展示場で今年1月に開催された。

3.Auto Expo 2023

従来偶数年開催だったものが、コロナ禍により奇数年開催になって、弊社としてはプレス機械展であるIMTEXが偶数年開催なので都合が良くなった。いずれも気温が低い1月、2月のインドのベストシーズンでの開催である。

1月12日から15日までの4日間開催で、日印国際産業振興協会(JIIPA)が毎回ジャパンブースを設営しており、今回も弊社はこの中で出展した。

4.弊社小間 

インド自動車部品工業会(ACMA)他が主催者で、出展約800社、インド以外の7ヶ国が参加、12万人ほどの訪問客が来場した。

まことにインドらしく、初日の朝9時になっても会場は設営のゴミだらけ、ホコリだらけ。

VIPの都合なのかどうか、オープニングセレモニーは午後2時からというので(オープニングなので、午前の開場の時間が普通なのだが)乞われて行ってみると、1時間経過しても始まる様子が無く、結局暗くなり始めた4時過ぎにVIPが到着してセレモニーが開催された。

それでも何とかまとまってしまうのがインド式なのであり、イライラせず慣れないといけない。
中国企業の直接出展はほぼゼロと見られた。中国人はほとんど居なかった。
自動車部品の展示会なので、弊社のプレスを使っていただいている会社も多数出展しており、

5.客先の出展小間で

期待できる商談も舞い込んだ。内1社は展示会後すぐに商談を詰めたいので来訪する様にとの強い依頼で、あらかじめ会期後1週間滞在予定にしてあったので訪問し、註文書を頂戴する事になった。。

会場は2020年当時まだ建築途中だったが、依然完成しておらず、広大な会場敷地に点在する古い建物を全部建て替えるにはまだ当分かかると思った。

6.プラガティマイダン会場

インドの展示会は混沌とカオスの中で開催される。

 

「ものづくりが支える日本」

経済学者の一部に、「ものづくりにこだわりあまり、サービスこそが経済・企業活動の中心であり、経済はサービスで動いて居るという認識から日本は取り残されている。日本のGDPの70%以上はサービス産業が占め、20%程度の過去の栄光であるものづくり産業を追い続ける事は時代にそぐわない」と言う人達が居る。
それでは、ものが無くてサービスが存在すると言うのであろうか。ものがあるから全てがある。簡単に言って、「食べるもの」があるから人は生きる事が出来、食べるものを作る為には「機械装置、肥料、電気などあらゆる もの 」があるから食べるものを生産できる。確かに統計的には70%のGDPがサービスと流通なのかも知れないが、あくまで数字上の統計であって、人が生きるに必要な「もの」の存在を無視している。
第二次世界大戦が終わった直後、日本の都市部では「食べるもの」が無く、郊外に「買い出し」に出かけ、金銭価値がある所有物と食べるものを物々交換した。生きるという意味では、これが原点だ。どこにも流通とかサービスは存在していない。お金さえ存在していない。そんな時代に戻るとか言うのでは無く、もの があるから全てが成り立っているという認識が必要だと言いたいのである。
日本は縄文の時代から、土器というものづくりを始め、大陸から渡ってきた製鉄技術をていねいに踏襲したのみならず、たたら製鉄から鍛冶屋による日本刀という世界で最も優れた金属製品を生み出した。異なった木材を組み合わせて鯨の髭のゼンマイで「からくり人形」というロボットもすでに千年以上前から作っていた。
技術は西欧諸国から学んだが、飛行機も自前の技術で製造していたし、戦後その技術者達が自動車産業の中で、日本の自動車技術を向上させた。これらのものづくりは、すべて多数の失敗の積み重ねから成り立っていて、これらを失うのは一瞬であり、もう二度と取り戻す事は出来ない。だから「ものづくり」技術は伝承されなければならず、これを失って日本は存続する事は出来ない。「もの」が無くなって何がサービスと流通だと言うのか。
過去の栄光は失敗の積み重ねの結果であり、過去の栄光は追うのではなく、さらに技術は積み重ねて改善改良する必要がある。我々は過去の栄光なんか追っては居ない。

おかしな事を言う経済学者は灼熱の鋳物工場や、米作りの圃場に行ってみて仕事をしてみれば良い。流通やサービスも必要だが、まず原点は「ものづくり」。つらくて厳しいものづくりの犠牲の上に流通やサービスがある事を知らなければならない。

 

「学生フォーミュラ日本大会 2023」

大学生達が、ものづくりに打ち込み、その結果に号泣する場面を見た事があるだろうか。多数の大学にある自動車部が手作りで作った競走車両の性能を競い合う競技会、学生フォーミュラ日本大会が、2023年8月28日から9月2日まで(走行は8月31日から3日間)、静岡小笠山公園エコパ会場で開催された。

7-1 学生フォーミュラ日本大会                         7-3 学生フォーミュラ日本大会                        7-2 学生フォーミュラ日本大会

弊社は昨年から大会公式スポンサーとなり、一部の大学の個別スポンサーにもなっている。若い人達がものづくりに打ち込んでいる、その一助となればとの考えと、その延長線上のリクルートもある。今回はエンジン車部門56校、EV部門26校で、タイ、インドネシア、バングラディシュ、台湾からの参加もあった。この他にも参加申込したものの、車両が上手く完成せず参加断念した学校もある。
車両検査がまず行なわれ、次に静的審査を経て、動的検査を経て実際走行となり、最後にイベントコースを20周するが、審査の都度ふるいにかけられる。もちろん危険な車は走る事は許されないから車検はパスしなければならない。20周走行の途中で、エンジントラブルで脱落する車も多数あり、完走しても号泣、脱落しても号泣、8月後半の酷暑の中、なにしろあらゆるショット場面が熱いのだ。
学業の傍ら、クラブ活動で車を作るのだが(エンジンやEVモーターは、車メーカーなどから提供され、タイヤやバネなどもスポンサーが提供している様だ)その労力と時間を考えると大変な事だと思う。好きなんだろう。参加する学生数も減りつつあるという話しだが、まだ多数の学生が実際に競技に参加しており、これを見るとまだ日本は当分頑張れるのだろうと心強く思った。日本のものづくり技術は伝承できる!  
暑い競技が終わり、秋もそこまで近づいています。

今年後半の皆様の御検討をお祈りします。

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