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世相

平成14年 夏

  • 2002年08月

ぬる湯・水風呂
  日本電産と言う会社は小型モーターのメーカーだが、しょっちゅう関連性のある他社の買収をする。それも技術があり将来性もあるのだが経営状況が思わしくない会社を狙う。買収後は特に自社の役員を派遣するでは無く、既存の役員と従業員を共々、浸かって居たぬる湯から引きずり出して水風呂にぶち込む。「会議は土日、移動は夜間」がモットーだそうだ。そうして赤字体質を黒字化へ転換させている。
 黒字化した日産自動車も、既存の役員仲間内ではついに出来なかった事が、何のしがらみも無いフランス人の社長を戴いた事が、今見れば最上の選択であったわけで、気持ちの良いぬる湯から厳しい現実の水風呂に誰がぶち込むのかが生き残りのキーポイントである。
  ただ、はっきり言って、最も水風呂にぶちこまなければならないのは政治家と役人だ。しかし誰にも出来ない。だからいずれ日本は破綻する。

どうせダメ
  ドイツで開催されたバドミントン・ドイツジュニア大会で、決勝戦に進んだ日本女子ダブルスの高校生コンビが、帰国航空券の変更が出来ないとの事情で決勝戦を棄権し帰国させられた、との報道があった。変更不可の格安航空券で経費節減したのは良いにしても、どうせ決勝戦に進める訳が無いとの推測で事前に帰国日を設定した様だ。
  生きる事は競争だ。動物でなく人間であるが故、富者は貧者に施しもし、技術協力もするが、原則弱肉強食であるには変わりが無い。一物一価の原則とその熾烈な価格競争に敗れているから今の日本経済はズタズタになっている。甲乙をつけず競争を排除する文科省の教育政策は根本的に間違っている。どうせダメ・・どうも文科省のポリシーはこんなレベルなんじゃないだろうか。子供たちが得べかりし教育の時間を削減するに他ならない学校の週休ニ日制など、彼らのやっている事は国の将来に大きな禍根を残す売国奴的行為だ。

タイ・インドネシア・ベトナム
  ノーマル航空券の価格が格安なので、インド・ベトナム・ミャンマー・インドネシア等に行くにもタイ経由にし、タイで航空券を買っている。下世話な推測もされるが、実際安いのだから仕方ない。
  タイの二輪・四輪の生産量は止まる事を知らない程増加しており、一部の自動車部品では二00五年までの生産確定数量が出て来た。グラフで右肩四十五度の増加だ。設備の稼動率は三直ほぼ百%、機械は止められない、故障が最も怖い、勿論増設もしている。かく言う弊社にも恩恵が出ている。
バンコック近郊に熱間鍛造部門を新設している会社があり訪問した。純タイ資本の会社だ。もはや日本では考えられない事だが、タイでは熱間鍛造を新たに始める会社がまだある。
  鍛造プレスも何台かすでに入って来ていたが全部ドイツの工場の休止設備を買い取った物だった。ヨーロッパの鍛造業も厳しそうだ。
インドネシアでも状況は同じ。こちらは結構見栄っ張りな国民性とかで、安くても中国製の二輪は敬遠されて日本製が良く売れるらしい。どちらも銀行からの借入がしやすくなった結果である様だ。特に四輪の価格は日本より高いので、ローンを組める事が販売の必須条件だが、タイもインドネシアも現地の金融機関に大分余裕が出来てきたのだろう。
  ベトナムで提携している工場の担当者へ送ったメールの返事がなかなか返ってこない。なんでも狂ったほどの忙しさで、納期を確保するのに土日返上毎日残業で、メールを見るのも大変な状況との事。

中国
  シンセンの展示会出品と、大連の機械据付で中国の東と西へ行って来た。片言の中国語は移動をしやすくするので学習(勉強は中国語で学習・シュエシ)しておくべきだ。商売にも大きくプラスだ。
  中国製造業の現状の大躍進は「儲かるから」の一語に尽きる。儲からない物、儲からない事はやらない。ここが彼らとの住み分けのキーポイントと見ている。

インド
  先日雑談中、「インドはやるやると言っても結局なにも変わらなかった。だからインドは悠久変わらず、カーストの下彼ら独自の変わる事がない歩みをするのではないか」という意見を伺い、猛反発した。確かにそれは十年頃前には当てはまったかも知れない。たとえば今も圧倒的多数を占める国産車アンバサダーは、三十年この方デザインはまったく変わって居ないが、それは注文して一年も待たなければ車が来なかったという社会主義体制時代の悪しき産物の結果だ。黙っていても註残が一年も二年もある状態では金のかかるモデルチェンジは誰もしない。そして三十年、技術的にあまりに遅れをとった事を知ったインドは現在大改革の真っ只中にあると言っても過言でない。弊社のプレスを沢山使って自動車用傘歯車を製造しているソナ・ステアリンググループのチェアマン、クマール氏は、「より快適な移動手段である自動車の製造はインドで最も重要な課題・・・」と言っていたが、、猛暑の中エアコンも無く、開けた窓から容赦無く入ってくる排気ガス、バネが固くごつごつの国産車での移動は苦痛以外の何物でもなかった事をかく言う弊員も実感として持っている。
  行く度にモダンな自動車が増えているが、多くは中型小型の日本車、アメリカ車、ヨーロッパ車そして韓国車だ。二輪もスペアタイヤをお尻につけたバジャジ社のスクーターがホンダやヤマハに急速に取って代わって来ている。二輪の増加は著しい。トラック・バスは依然昔のまま、これからだ。弊社も大型機の受注が相次いでいる。行って見てみないとわからないだろうから是非行く事をお勧めしたい。中国ではヨーロッパ勢に大きく水を開けられているが、インドではその轍を踏まない様にと、弊社も呼ばれればすぐ行く事にしている。タイ・インドネシア・ベトナムで免疫が出来ているせいか、弊員はインドでお腹をこわした経験が無い。

釜山の飛行機墜落事故
  四月十五日昼前、中国国際航空の旅客機が釜山・金海空港目の前の山に衝突した。同時刻同空港に到着予定の日本航空便に乗る予定であった弊員にとっては他人事とは思えない事故だった。釜山地方悪天候の為、日本発釜山行きの飛行機は総て欠航となり、同日仁川新空港経由で釜山に入ったのは自宅を出てから十七時間後の長い旅となった。長い内需不況により海外へ活路を求めている装置産業である弊社にとって、海外出張の数は増加の一途で、中国でもインドでも広大な大地を移動するには航空機に頼らざるを得ず、確率から言えばいつしか自分も綺麗に大空に散るのかなと、言葉からいえば華麗なものの、実際は大地に墜死する時は痛いのかなとふと思った次第です。

ソウル国際工作機械見本市
  名称にはソウルがついてはいるが、なんでもソウルの展示会場がサッカーワールドカップ開催の為プレスセンターだか何だかに使用され、今年は急遽釜山での開催となったとの事。
  今回弊社は初めて機械出展による参加をした。韓国は私にとって好きな国の一つでもあり、年に何回も商用で出張するが、ここ近年経済発展による余裕が強く感じられる。自動車や家電製品が格段に良くなった。ファッションも洗練され女性も綺麗になったし、豊富な食材、インフラの充実、何をとっても一先進国と感じられる様になった。お陰様で韓国車にも、弊社のプレスで鍛造した部品が組み込まれているのですが、日本車との競合を考えると少し複雑な気持ちです。

眠れる獅子
  かつて19世紀後半、中国を支配していた清朝は諸外国から眠れる獅子といって恐れられていた。しかし、イギリスは香港を、ドイツは青島を、ポルトガルはマカオを、ロシアは遼東半島をと続々と侵食を許し、果て又日清戦争後の日本の侵略は止まる事を知らず、ついに獅子は目を醒まし大きく吼える事なく清朝崩壊へと繋がって行った。
  そして今、世界が日本を見る目はまさに「眠れる獅子」だ。捕鯨では日本の農水省の担当者が丁丁発止と小気味良い対応をしてくれてはいるが、瀋陽にしても国連にしても、ODA拠出にしても、日本はちょっとつつけば引っ込んで、ろくに無い金も一生懸命借金して惜しみも無く出してくれる便利な国だ。経済大国とは言われても決して吼える事の無い張子の眠れる獅子日本。

生き残り
  最近とんと新幹線に乗っていない。国内での引き合いは無きに等しくなった。日本を支える中小製造業で、岡野工業とか、北島絞製作所、三吉工業等まだ元気の良い会社を紹介していかに生き残るべきか雑誌・報道にちょくちょく出て久しいが、学校で言えば一学年百人・二百人の内、トップの五~六人とケツの五~六人は放っておいても食って行ける。その近辺に居る連中も努力次第で何とかなる。問題は圧倒的多数の、五段階評価で言うと二から四に位置する企業だ。明日の米がそろそろ底をついて来ているのでどんな生き残り策も無いに等しい。
  技術一本の中小製造業の場合、大体が堅い仕事をしてきたので、店じまいもご迷惑がかからない様にと心がけるのが常道だ。貯金をここまで取り崩したらやめようというのが相場だろう。雪崩を打って一緒に壊滅という訳ではない。櫛の歯が抜けて行く様にというのが当りだ。決断を早めるのは後継者の不在もある。客先から単価は下げられ、毎日残業・土日も返上とやっても赤字なら息子に継げと言うのも酷な話だ。頑張ってここを乗り越えたとしても先々良くなるという希望が無いし、夢と希望を持ってと励ましても、旗振り応援だけでは土台無理な話だ。
  そもそも、成長期が終わり、物ほぼ揃い、目新しい物も乏しくなり、人口も減少へ向かう中、高度成長期の大量生産のやり方が通じるわけが無いし、物もそんなに売れるはずもないのが日本の現状だ。やはり企業数が減り就業の場が減少するのは避けて通れそうも無い。状況の劇的な変化に、国の政策も大きく変えて行かねばならないが、今の政治家と役人にはそれは出来ない。かつて七つの海に乗り出して各地に植民地を作り、現地の富を根こそぎ掻っ攫って隆盛を馳せたイギリス・スペイン・ポルトガル・オランダ・(フランスも)等の国々も、今は大きな成長も無く、かと言って食うに困るでも無く、そこそこ生活を楽しんでいる。特にイギリスはここに至る道筋の途中、ポンド紙幣は紙くずの様になる最悪の経験もしたが、鉄の女サッチャーの大鉈を振りかざした改革が現在のイギリスを取り戻した事は記憶に新しい。日本は出来ない、やれる人が居ない。
  生き残り・勝ち残りはすなわち半分以上の負け組みも出るという結末を生む。皆が頑張って相乗効果で全部が助かるという甘い見込みは無い。国全体から見れば混乱は避けられそうも無い。
  学校はもってのほかだが、企業の週休二日もやめる時期だ。呆けた労働省に何を言っても無駄だろうが、現状の厳しさからすると「朝星・夜星」・会議は土日・移動は夜間。その位やっても生き残りは困難だ。健闘を祈ります。

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