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世相

平成22年 正月

  • 2010年01月

「デジカメ・シャッター音」
デジカメや、携帯電話器のカメラ機能のシャッター音は電子的に作られた音だ。おしなべて画一的なあの「カシャ」という音である必要は無いのではあるが、従来のメカニカルカメラのシャッター音に近い音に模しているだけである。余程のマニアでない限り、デジタルカメラの簡便さに慣れてしまえば、もう昔の機械式フィルムカメラに戻る事は無いはずであるが、いずれ時が移れば「カシャ」という音の由来も判らなくなってしまうのでは無いかと思っている。お祝い袋に印刷されている「熨斗(のし)」もそろそろ無くなり初めている。大体何でそんな模様が印刷されているのかも判らない人が大半になったはずだ。
真ん中に1本入っている黄色い線が、本来は、中華料理では高級品の干したアワビの一片である事(熨斗アワビ)も若い人ではもう判らないだろう。
もう30年も前の事だったと思うが、沖縄の石垣島地方に、「逆水(さかみず)」を忌み嫌う事例が残っていた。ぬるま湯を作るのに「お湯に水を入れる」のか、「水にお湯を入れる」のかである。後者が「逆水」であり亡くなった方の体を洗うためのぬるま湯を作る為の方法であり、日常決してしてはいけない忌み嫌うやり方である。当時は私自身そんな事は知らなかった。記憶の残らない小さな頃に祖父祖母が亡くなり、近親者が亡くなるという経験が無かったからだろう。 ただ今も各地で「逆さ水」という言葉で同じ事例が残っている様だ。しかしながら、最近ではそもそも病院で亡くなると、湯棺まで病院でしてくれ、ぬる湯も簡単に蛇口から出てくる昨今であり、いずれぬるま湯をどう作ってはいけないなどと言うしきたりも無くなるのであろうか。

「ジャム」
ジャムと聞くと多くの人はイチゴジャムを連想する筈だ。正確にはグジュッと密度を高め押しつぶされ、にっちもさっちも行かない状況(や物)がジャムだ。だから交通渋滞は「トラフィック・ジャム」と言うし、機械が動かなくなってしまう事をジャミングと言う。
昔、アメリカの幼児向けのテレビ番組「セサミストリート」で、ポペット人形のグローバーが、「僕は、リンゴの数え方はわかるけど、ミカンの数え方はわからないよー」という一コマがあった事が思い出される。ジャムと聞いてイチゴを連想するのはこの手の人だ。本質を知る事が大切だ。

「羽田・成田」
羽田空港か、成田か、それぞれの言い分はあるかも知れないが、利用者の利便からすれば答えは羽田に決まっている。そもそも空港は利用者があるから成り立っているのだから、利用者の利便を最優先すべきだ。成田が反対するのならば、「ならばいつ成田空港は完成するのか?」という問に答えるべきだ。空港の中にぽつねんとある民家と塔はこの空港の問題点欠陥を見事に表現し、国民の恥でしかない。道路からでも、鉄道からでも、空港に入る際のセキュリティーチェックは発展途上国と同じレベルで、それらに従事する人達の人件費の負担を考えると着陸料の高さも簡単に想像できる。ところが成田では着陸料を引き下げる代わりに、昨年11月16日から保安サービス料の一律徴収が始まった。空港保安関係費の増加によるものとの事だが、徴収の付け替えをしただけだ。もちろん羽田では徴収は無い。24時間運営は世界の常識だが、成田はそれが出来ない。羽田は出来る。遠いという問題以外にも欠陥多数の成田である。航空会社にしても二つに分散された空港の運営負担は大きいはずだ、日航が参っているのもあまりにも空港が多いという経費負担増の部分も大きい。しかし想像するに、今後羽田が拡充されるに従い、10年とか20年とかいうスパンで成田はなし崩し的にその地位を低くして行くのだろう。ここまで来ると一挙にとは行かない。来た道と同じ時間と道のりが必要だろう。全部が税金の無駄使いであることは間違い無い。

「悪事ネットを走る」
年間半分以上、各国を行ったり来たりしている、まさに寅さんの行商稼業そのものなのであるが、インターネットとコンピューターがそれを可能にしていると言っても過言ではないだろう。ここ数年で書棚という書棚の書類や雑誌を全部PDFに取り込んだ。平行して、社内におけるペーパーでの書類を廃止し、データー化した。それらは全てメモリーに突っ込んで、事務所ごと移動していると言っても過言ではない。ファックスはほとんど使わなくなった。文書・図面・写真などは全部インターネットを経由してオンタイムでやりとりできる。ところが、便利さの裏には危険がつきまとうのが世の中の常なのである。悪事ネットを走る。ウイルスメールとか、フィッシング詐欺とか、マネーロンダリングだとか、
石川五右衛門ではないが、浜の真砂(まさご)は尽きるとも、世に悪人の種は尽きまじ、か。

「パリ地下鉄、ヨーロッパ公衆トイレ」
以前パリの地下鉄で大変な思いをしたことがある。今思い出しても苦しくなるが、市内中心部のオペラ座あたりで夕食を取り、地下鉄で10分ほどのホテルに戻ろうとしたところ、生憎と大きい方をもよおしてきてしまった。ところが地下鉄の駅という駅にはトイレ設備が全く無いのである。どうも薄暗がりの通路では明らかに小の方の臭気がするので、やむない場合は小はやってしまっているらしい。まさか大をやるわけには行かず、がんばってホテルまで戻った。
もともとパリもロンドンもヨーロッパの都市部ではトイレという概念が無かった、きちんとしたトイレが無く、いわゆる「おまる」で用を足していた。あのベルサイユ宮殿にさえトイレは無かったのだから、今のインドを笑うわけには行かない。昔海外旅行がようやく一般的になった頃、風呂場と便所が一緒で、びっくりした日本人が多かったが、もともと日本人の感性では「ご不浄」とも言った様にトイレは不浄であり、風呂場と一緒にできるはずもなかった。ヨーロッパでは、風呂場がおまるの置場に最適だったのだろうと言うか、風呂場にしても区切られた区画があったわけでも無く、なにしろおまるとバスタブはセットだったのだろう。
おまるにたまったブツは、川や側道に放出される事になるのであるが、江戸の街の様に、排出ブツは農家に買い取られ野菜を作るリサイクルに100%使用されたのと大いに違う。
昨年訪問したロシアの工場のトイレは中国式のしゃがみ便器でびっくりした。かつてフランスの工場でもまったく同じで驚嘆した記憶がある。昔はヨーロッパでもしゃがみだったはずだ。ベルサイユ宮殿の使用人は都度木陰でしゃがんだらしい。おまるをつかう様になってから、形状的に座り便器に変わっていったのだろう。
しかし、駅という駅にウォシュレット式さえ設置された日本の公衆トイレは間違いなく世界一だと思って間違い無い。

「二宮金次郎、ケータイ」
最近の若い人たちは、人混みで歩きながらも器用に携帯でメールをチェックしたり、打ち込みをしている。背をかがめてメールチェックをしているその姿を見ていて、二宮金次郎の像を思い出した。背中に薪は背負っていないし、本は携帯電話に変わっているが、所作はあの像と同じである。

「未亡人、後家」
妻に先立たれた夫は割と早く後を追って逝くケースが多いが、逆の場合、残った妻は余生を自分の好きにのんびり過ごすケースが多いらしい。後に残った妻を後家さんとか、未亡人とか呼ぶ事があるが、ちょっとひどいのでは無いかと思って居る。特に未亡人とは、「まだ亡くならない人」という事で、生き残っているのがあたかも罪悪に聞こえもし、男性ながら、女性が気の毒な気がする。

「パキスタン」
昨年も又、11月の3日間、カラチで開催されたマシンツールパキスタンという展示会に出展した。ペシャワールなど北部パキスタンは連日テロの爆破事件が発生し、多数の死傷者が出、多くの人が大丈夫なのかと心配はしてくれたが、やはり行ってみてしまえば問題は無いのである。 然しホテル構内に入る車のチェックは昨年と比較して、2回の車止め(地面からの昇降式)があり、さらに厳重になった。ホテルのテラス、屋上にはライフルを持った安全保安員が24四時間待機し、ホテルによっては、道路からの入り口に自動小銃を構えた傭兵に近い様な要員が配置され、道路に面した歩道に
は40フィートのコンテナをテロでの爆発に対する防護壁にするなど22sePearl-continental-Hotel(写真)、昨年からは様変わりし戦地を思わせる状況であった。勿論ホテルに入る時には飛行機の保安チェックとおなじチェックがある。やっかいだが、泊っているホテルの下から爆発が起き丸焼けになるよりはましだろう。カラチはテロによる爆破は発生していないが、いつ起きてもおかしくは無く、この展示も一昨年から比較すると出展企業は半減した。もちろん外国勢の出展は激減である。残念ではあるが、一昨年から見ると、パキスタンの経済的進捗は停止あるいは大きく後退してしまっていると感じられた。カラチはテロは発生していないとは言うものの、現在は、という注釈が必要で、従って前述した市内要所で見られる保安対策への出費は経済の発展に大きく足を引っ張っているのは間違い無い。ショッピングアーケードなども閉じられ、消費も落ち込んでいるとの事であった。
鍛造工場はラホールやカラチを中心にパキスタンには結構あり、インドの様に二輪や四輪の需要増によりここ数年の間に大きく発展するのではと期待していたが、残念ながらその期待は撤回する必要がありそうだ。1億8000万人の人口は世界6位で人口から見たマーケット規模は大きいのであるが、不安定な国情が多くの投資を遠ざけ、発展にブレーキがかかっているのは紛れも無い事実と言えるだろう。このままで行くとアフガニスタンの様になって収拾がつかなくなる可能性も見える。悪化する一方で良くなる兆候が見えない。
展示会自体の訪問者数は昨年並みだったと感じている。従って弊社の小間にも来訪者は多く(多くがわけの判らぬひやかしだが)、初日はVIP巡覧が弊社にも立ち寄ってくれた。
(写真)22sepakistan展示会の中日に、カラチ商工会議所が外国人の為に夕食会を開いてくれた。アメリカ、フランス、ドイツ、ブラジル、ドバイ、シンガポールと弊社日本、それにインド。中国メーカーは一社だけ出展していたがパーティーには来なかった。珍しく台湾勢は今回一社も無し。それぞれが何かしゃべれと言うので私も否応なしに(英語で)しゃべらされたが、インドの一社が早速「パキスタンは何をインドから輸入出来、何をインドに輸出できるのか明確でない」といちゃもんをつけ始めた。対するパキスタンが何人も反論をはじめ、収拾がつかなくなりそうなのを、目の前のシンガポール勢と笑いをかみ殺していた。両国の反目の根はこんな所でも顔をのぞかせる。
パキスタンには、ホンダやヤマハの二輪車が進出しているが、ここの所、中国から部品を輸入して組み立てる企業が激増し、地元二輪車メーカーが乱立している。今回も「SAKAI」という日本を感じさせるブランドのオートバイが展示されていた。自転車で往事トップを走っていた堺市をもじったとの事で、エンジンは中国からの輸入で、他はほとんどローカル部品を使用しているとの事であった。

「タイメタレックス」
東南アジア最大とも思われる機械展示会、タイメタレックスが今年もバンコック郊外のバイテック展示場で開催された(写真は弊社小間)。御多分にもれず出展社数は2割ほど減り、それも大きな小間面積を取っていた会社が軒並み出展を取りやめたので、仮設ドーム館は今回設営されなかった。然しなんといっても自動車工業が盛んなタイの事、十一カ国から2,700社が展示し、55,000人22sethaimetalex (1)の入場者があった。かく言う弊社はメイン通路の空きスペースとなった場所に移してもらい、今回は例年にも増して多数の引き合いがあり、チャンネル3のテレビインタビューも受ける始末(写真)。
タイも御多分にもれず一昨年後半に発生した経済リセッションの影響は受けている。自動車の販売・生産も頭打ちで今後のキーポイントはいかに輸出を増やすかであろう。技術力は年々向上し、世界のトップレベルにも追随しつつあるが、残念な事に政治の混乱がいまだに尾を引いており、座りが悪く落ち着かない。カンボジアの客人となったタクシン氏が、もともと国境紛争を抱えるタイ・カンボジア問題に火をつける結果となった。本来タイは両面外交が上手く、結果どこの植民地になる事もなく現在に至っているのであるが、ここ最近の信じられない騒動による海外からの信用失墜は痛い事である。赤シャツ派(タクシン)・黄色シャツ派(反タクシン)の問題は当分解決はしそうもない。ただ、願わくは空港だけは閉鎖しないで欲しい。

「ヒューマノイドロボット」
固さの違う、卵焼きやマグロなどの違った鮨を、崩すこと無く掴める指を持った手の開発の記事を雑誌で見た。写真は人の手と見間違う程の精巧さである。握手も相手の握り具合に反応して握り返すのだそうだ。樹脂の骨と筋肉に相当する空圧コントロールされるゴム体、それに人肌の皮膚が相乗しているとの事だ。人間の各部のパーツ・パーツの研究がそれぞれ得意な企業に深耕されて、完璧に近い人型ロボットが間もなく登場する事が期待される。仮に介護ロボット、ガードマン(マンじゃないか?)ロボット、召使いロボット、お友達ロボット、清掃ロボット、ドライバーロボット、工場ロボットはてまた、愛人ロボット、戦士ロボットなどもろもろの可能性を考慮すると、およそ地上の人口程度のロボット需要が出現する事は間違いないと想像している。少なくとも人一人にロボット一台が必要となる時代が至近に迫っている。つまり自動車以上の市場が創製される可能性が非常に大きいのである。犯罪に使用されるロボットも出るだろうし、それに対抗する警察ロボットも出来るはずだ。まさに映画ターミネーターの時代がすぐそこまで来ている様な気がしてならない。邦画でも綾瀬はるか主演の「僕の彼女はサイボーグ」というのがあった。あんなのが居たらきっと若返ってしまうだろう。価格帯が1000万円を切れば私も絶対購入するだろう。綾瀬はるかみたいなやつを! 時代の進歩は際限が無い。エンジンが無くなったらとか電気自動車でどうもあたふたしているのであるが、それどころでは無い、場の入替ではなく、いままで全く存在しなかった大きな需要変革が今まさに押し寄せて来つつあるのである。その需要を作り出すのは日本の底深い技術である事は間違い無い。
かく言う自動車の販売も持ち直しはじめ、平成22年の景気もほんのりと赤みを帯び始めた感じがある。今年一年、貴社の御健闘をお祈り申上げます

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