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世相

平成19年 夏

  • 2007年08月

「環境次第」
 弊社では今春お蔭様で数名の工業高校卒業生が入社した。話が話しを呼ぶのか、やはり弊社に居る先輩を訪ねて入社希望が出てくるらしい。人と共に社内機械設備も毎年NC化された最新式の物に更新している。入社1ヶ月にも達しない新入社員でも大型NC機械で部品を切削している。昔の様に切削工具をグラインダーで砥いて切り屑がからまない様に工夫する必要は無い。全部お膳立てされた使い捨てチップだ。最近のNC工作機械はプログラムも至極簡単。昔の様に刃先のRまで考慮して七面倒くさいR加工のプログラムを作成する必要もない。一応それなりに動かして使うには1ヶ月もあれば良い様だ。垣間見た切削作業は、重量3トン近い部品で、形は単純だが外注に出せば4~50万円とられる。環境さえ整えれば新卒であっても即戦力になる。大きな鉄の塊を機械に乗せてプログラムを組み、加工すると図面通りの形に削れてくる。いずれこの面白さを手加工で何か作る楽しみに導いて職人に育てたい。
以前記載したと思うが、冬場に殆ど枯れてしまうので観葉植物は弱いと思い勝ちだが、実はこれらが本来植生している熱帯のジャングルでは、落ちた落葉の一枚からでも根が出て自生を始める程強い植物なのである。伸びるか枯れるかは環境次第なのである。ひまわりは太陽を向くのが好きなのでは無く、太陽から出る紫外線には植物の育成を阻む要素があり、太陽の当たらない側の茎の伸びが大きいので自然と花が太陽を向いてしまう。好きなのでは無く、仕方なく向いてしまうのである。物事の本質を良く見極めないとうわべだけの観察では取り返しのつかない失敗をする事がある。環境と共に大事な事だ。

 

「マニュアル人間」
 ファミリーレストランとその類では、飲み物と料理を一括して受けるのが大方のマニュアルらしい。渇いた喉にビールが真っ先に欲しいのに、サッと出てこない。催促しても待たされた上で料理と一緒に来たりして、一体食事の順番がわかっているのかどうか憤慨する事がある。アメリカやヨーロッパでは、着席すると「何をお飲みになりますか?」と飲み物の注文をまず受け、ビールやソフトドリンクの類だと、料理の品定めをしている最中にさっと持ってくる。料理の注文を受けるころにはジョッキのビールは大方無くなっていて、料理の注文を受けるとともに「もう一杯どうか?」と誘われる。勿論料理が出てくるのはまだ先だし、大概欧米のウエイトレスは愛想が良いので、ためらわずもう一杯という事になり、おおかた2杯から3杯も注文してしまうのである。飲料は注ぐだけであるから手間がかかる料理より利益率が良いはずだ。たくさん飲ませた方が儲かる。多分日本のファミリーレストランは、全部の注文を手元の端末に最初に打ち込みレシートを1枚で処理する様なマニュアルで指導されているからであろう。ただ誰もそれが儲けの減少に繋がる事を不思議にも思わないらしい。
インドのジェットエアーという航空機会社。機内では国内線ではあるが全部の路線で機内食サービスがある。食事を配り始めると、配り終わった客から色々注文がでる。キャビンアテンダントは配るのを中断し、呼ばれたお客のところへ行き注文を聞き、それを処理してからまた配り始める。場合によっては料理の入っている大きなギャレーを戻したり持ってきたりしてまで行ったり来たりしている。殆ど例外が無い。依頼があった客の要望はその都度処理するマニュアルになっているのだろう。ただ見ていると誠に効率が悪い。地元の連中に聞いたら、マニュアルに記載されていない事態が発生すると大方ギブアップなのだそうだ。地元でも評判はあまり良くない。
前述の「環境次第」と合わせて考えると、これからの日本はどの方向性が得策か判然としてくる。戦後の日本はマニュアル化により高度成長を遂げたが、成長の終焉にあたり、今度はマニュアル化できない分野に進んで諸外国と勝負する必要があるはずだ。それなら簡単に真似されない。昔の職人の世界に戻るのだ。

 

「スワンナプーム空港その2」
 誠に、マイペンライ(タイ語でダイジョブダイジョブ)で物語りが終了する感じだ。タイ人は自国の恥と大いに憤慨している。昨秋開港した新空港は、年明け滑走路の亀裂発生が発表され、発着数削減の為、国内線の殆どは旧ドンムアン空港に移った。ただ、まだ未完成の成田とどちらがましかと問われると返答に窮してしまう。

 

「韓国・労働貴族」
 ある人によると、ゴネ得の発想が韓国にはある様だ。日本ではあまり報道されていないが、現代自動車労組による年初のストと諸要求の会社側の受諾は国民の反感を買っている。労働貴族という言葉も出来ている。相次ぐ賃上げにより車両価格がアップし競争力の減少につながっている。それなら輸入車を買うと、不買運動も出ている有様だ。たまたま七月に韓国出張中、またストの報道があった。経営側は労働貴族の暴走を止められないらしい。

 

「小日本・大中国(シャオリーベン・ターチュングオ)」
 シャオリーベン、中国の反日デモ隊が頻繁に使用する日本を侮蔑する言葉だそうだ。物理的に小さいのではなく、人間が小さいといった意味と同列の用語だ。我々が、大日本(おとなの日本)であるべきとしたら、そんな侮蔑に躍起に怒る事も無いだろう。「中国は大国だ、国土は日本の26倍、人口は12倍、中国に比べれば日本は小さい、中国は本当に大きい・・・」とやるべきだろうか。国際間の外交のやり取りではジョークが大きな効力を持つ。やんわりと笑いながら仕返すのだ。外交下手の日本人には無理だろうか?
 第10回になる、中国最大の機械装置の展示会CIMTが恒例により4月に開催され、弊社も実機を展示した。(写真)20074peking
2年前は小泉靖国参拝問題に起因した日本批判の最中で、上海の総領事館が投石された時でもあり、遠慮がちに小さくなって過ごしていた。タクシーに乗るのも気を使った。その前の会はSARS騒動ピークの時である。毎回大変な思いをしたものだが、今回は幸い会期中に温首相の日本訪問がありそれも大変友好的に終始したのでありがたい事であった。政治とビジネスは別物では無い。政治は国の根幹であるビジネスを支える必要がある。日本のビジネスは広く海外に展開し年毎比率が高まっている。小泉前首相は落第だったが、安部総理はアジア外交では今のところ良い。

 

「騙してもまだまだ騙せる日本人」
 邱永漢著、中国ではいくらでも日本人は騙す事ができるといった本だ。だが商売ではどうも日本人の所を台湾人とした方が良いのではないかといった事例がある。
CIMT会期中、面白い情報が長く付き合っている台湾の友人から入ってきた。台湾の機械メーカーが中国で大分騙されているらしい。面白いと記したのは失礼だが、祖先が同じ者同士であるが故にそうなってしまっているのでは無いか。警戒が甘いのかも知れない。
 手口の一例。機械の注文が入り、前受け金3割が振り込まれる(前払い3割、中国の工場据付時6割、試運転渡し後1割の支払い形態が台湾が販売する場合多いらしい)。勿論前受けが入るから安心して出荷する。現地工場に社員が赴き工場搬入する。なぜか都合により夕方に搬入の指示でトラックを客先工場?に入れ荷卸する。夕食を振舞われ、暗いから開梱・据付は明日との指示。翌朝その場所に行くと、梱包品が消えているというわけだ。
機械メーカーの社員が抗議すると、逆に何も受け取っていない、受取書にサインもしていない、逆にメーカーが物語りを仕組んでいるのでは無いか、すでに3割は払っているのにどうしてくれるのか、これは詐欺だという訳で公安が登場してメーカーの社員は捕まってしまう。前払いの3割を返さなければ社員は捕まったままという事になり、泣く泣くメーカーは社員を解放させる為に3割の前払い金を払い戻すといった結末。似たようなやり方で数十台やられたメーカーもあるという話だ。

 

「インド、脅威?」
 時節柄最近テレビや新聞でのこの手の報道が多くなってきた。人口の多さはこの国の大きな可能性であるが、逆に大きな問題点でもある。人口10億以上、ざっと日本の10倍だが実際に10倍の実感がピンとこない。ところで10人子供が居たとしたら、これはなんとかやり繰りをして育てる事は可能な範囲であるだろう。ただその10倍の100人となったらこれは無理・不可能だ。10倍の人口とはこんなものではないだろうか。人口が10倍なら頭の良いやつだって10倍居る。スポーツの強いやつも10倍、美人も10倍だ。数の上ではかないっこないが、10倍を食べさせて育て、取りまとめて制御するのは至難の業といわなければならないだろう。中国も同じだが人口の多さは両刃の刃だ。反対に日本は少数精鋭のメリットを最大に発揮すべきではないだろうか。

 

「インドIMTEX・IETF」
 1月にインド・バンガロール(ベンガルールという昔の呼び名に戻す案があるらしいが、まだ政府からの正式な許可は出ていない)で、インド最大の機械展示会が開催され、実機出品した(写真)。出品機械はそのままデリーに移送し、2月にデリーで開催された総合見本市のIETFに出展された。IETFは10年振りに日本がパートナーカントリーとして指名され、ジェトロが指名に応じて出展者のまとめ役をした。10年前、弊社は始めてインドでのこの展示会に実機を飾って出展した懐かしい思い出がある。その頃から蒔き始めた種は、今沢山の実りとなって弊社の売上の一方を占めている。専門見本市のIMTEXに力を置いたので、IETFはその後出展していなかったが、今回は様変わりしてしまった。訪問者が非常に少ないのである。インドもこの10年で大きく変20072indiaわったのだ。な20071indiaんでもかんでもの総合見本市から業種毎の専門見本市に力点が置かれ、そちらに訪問者も移行したものと見られる。時代の趨勢であり仕方無いはずだ。万を期し出展した多くの日本企業は空振りにがっかりしていた。他方その1ヶ月前のIMTEXは前回のムンバイの開催から3年振り(3年ごとの開催であるが、次回から2年ごとになる)、あいかわらず引きも切らさず訪問者で昼食もままならない状態だった。展示会場はバンガロール市内から車で一時間かかる郊外に新設された。しかし開催前日には、まだメインゲートのアスファルトの敷設をしている状態で、建物も壁が出来ていない号館もありシートで覆った一時しのぎで見切り開催された。この会場が恒久的な会場になるとの事であり、完成すればインドにしてみれば素晴らしい会場となるが、交通手段が難点だ。市内から遠すぎる。雨が一度も無く毎日埃の中の進軍だったが、雨でも降ったら大変なはずだ。未完の会場も誇り?だらけで往生した。

 

「インド、見えない成功者」
 最近面白い事に気がついた。自動車のガラスである。マルチスズキは当然日系のA社製のガラスを使用しているが、現代自動車、フォード、地元タタの車のガラスにも同A社の同じマークが入っている。渋滞で横に並ぶ車のガラスを見ていて気がついた。かなり大量の供給実績のはずと思い、聞いてみたらインド自動車生産の7割を供給していると言う。物も良いのだろうし、増加する自動車生産量に十分応じた供給をしているのだろう。どこの車が売れても自社の製品の販売につながる。普段自動車のガラスなどは注意もしないし、大きな話題のも上らない。それで良いのだろうというか、その方が良いのだろう。しかししっかり利益は上げているはずだ。商売はこんな見えない所の方が利益が出る。

 

「ノーベル」
 今年2月にインドデリーで開催された工業関係の総合展示会IETFに出展したが、ホンダブースでは人型ロボット、アシモ君もはるばる日本から訪れ、その精緻な運動や踊りに喝采を浴びていた。何度も述べているが人間とロボットとの共存生活もそろそろ至近の事実として俎上に上がって来た感がある。老人の介護(たとえば風呂の介助)や視覚障害者の外出誘導補助などにどんどん導入されて行くであろう。いずれ精巧なループイン回路で、ロボット自身にも思考ができる様になるだろう。ただ悪用する連中もあるはずだ。映画ターミネーターの世界が現実味を帯びてくるのである。新しい技術はいつでも両刃の刃だ。
 昨夏北欧を訪問して気がついたのだが、スカンジナビア諸国とフィンランドの国々の地盤は非常に強固な岩盤質である。いたる所に岩盤が露出している。土建工事は大変な事であろうと思ったが、ふとなぜノーベルがダイナマイトを開発したかが、まさにダイナマイトが爆発する様に閃光とともに判然としたものだ。土建工事の進捗を飛躍的に短縮する事の出来るダイナマイトの発明でノーベルは巨万の富を築いたのであるが、他方それが戦争で人々を殺傷する事にも使われる結果となり、新技術の平和利用促進の為にノーベル賞が創設されるのである。悪事千里を走ると言うが、犯罪との戦いはいつも鼬ごっこであり、新技術がそれに輪をかける。だからと言って新技術にストップをかける事は本末転倒である。
 原子力発電所の新規着工が世界的に最近増加している。西欧を中心に多くの国でその危険性を指摘するあまり原子力発電所の新規建設が凍結されていたのであるが、中国やインド等の巨大国家の石油消費の劇的増加にともなうこの石油狂乱の中、ついには背に腹を変えられなくなったのであろう。技術の進歩の途中には色々な失敗が伴うがそれに負けたらすべてそれで終ってしまう。あきらめの悪い日本人だからこそ日本の工業技術は向上した。この諦めの悪さを失いたくない。

 

「硫黄島からの手紙」
 これはアメリカ製の映画であるが、登場人物はほとんどが日本人でほとんど字幕が必要無い。赤紙1枚で否応なく徴兵された一庶民と、アメリカの滞在期間が長く、人道的な硫黄島守備隊の長が主人公である。ロスアンゼルスオリンピックの馬術競技で金メダルに輝いた西竹一中佐(硫黄島で戦死)も色を添えている。史実をほぼ忠実になぞりながら、戦争の悲惨とともに、日本軍隊の鉄拳による内部統制の非情さをも描いている。
 玉砕自決の場面が多数出るが、一切の例外なく最後に「天皇陛下万歳」が叫ばれるのである。「靖国でまた会おう」と言って不本意にも散っていった兵士達は靖国神社に祭られるのであるが、現在、万歳の対象であった天皇陛下は靖国神社には参拝されない。政治に利用されない立場をとっておられる天皇陛下故に一切の発言は無いが、陛下が安んじて、散っていった兵卒の御霊をお参りできる様にするのが、今問題となっている「靖国問題」の最短の解決方法であるはずだ。今年も、8月15日が近づいてきた。すでに今年も半分を折り返しており、貴社の変わらぬご健闘を祈念いたします。

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