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世相

平成12年 夏

  • 2000年08月

「メールアドレス」
 時代は、ものすごく急ピッチで変化している。FAXが早晩どの家庭にも入るだろうと思っていたものだが、その前にEメールがとってかわりそうだ。上場企業やちょっとした規模の会社とのビジネスでは「後でメールで返事下さい」とか「メールで連絡しますから」とやられる。皆電話で言えば内線に相当する個人アドレスを持っている。この人たちは間違いなく自宅にもパソコンがあり、メールアドレスを持っている。求人・求職は最早パソコンでの媒介が主流になる勢いだ。
 アジアやインドの発展途上国からはメールでの商談が漸増している。通信回線が安定せずFAXがやたら入らない国でもメールならきちんとみれるし、何しろ安い。
名刺を受け取って、電話とFAXの番号が共通であったりすると相手の商売の規模が推し量られる。まして今時FAXの無い会社がもしあったらかなり問題のある会社であると誰も訝るだろう。この一・二年でメールアドレスがこの立場になる事は間違いないと断言出来る。現在持っている自分の名刺にメールアドレスが印刷されていないとしたら、古い名刺は早く捨ててメールアドレス入りの名刺に新調する事を強くお勧めする。 Eメールも使えない会社と思われるのが落ちだ。二十一世紀に生き残れるアクティブな会社かどうかは、まずこんなところからふるいにかけられる。

「メール過信は危険」
何を言っているのかと叱らないで欲しい。便利さには危険が付き物だ。ウイルスだとか停電だとかの危険も十分に承知しておくべきだ。また、Eメールは多くの犯罪の温床になる事も認識しておく必要がある。パソコンのキーボード一辺倒の生活は字のかけない若者をますます増加させている。そしてホームページも過信は禁物。これで売上が一挙に倍増!などとノー天気な判断をしてはいけない。決定権の有る社長は忙しくてホームページ等は見やしない。やはり、面と向かった商談で自社製品のアピールをすることが最も重要である事は言うまでもない。

「ゆとり教育という馬鹿の養成」
文部省が推進しているゆとり教育とやらの結果、学力崩壊が急ピッチで進んでいるようだ。詰め込み教育を反省してじっくり勉強できる様にと、学校での教育時間の削減と土曜の休日を実施した結果の学力低下が、大学や企業で問題になっている。小学校の算数がわからない。読書をしないなど当然だ。何しろ、大方の漢字が読めないし、勿論書けない連中がぞろぞろ居る。文章を書くなど夢の話だ。応用はまずきかない。系統だった解析能力は欠落している。自国語も満足に理解できない連中に英語どころの話ではないだろう。学校の手抜き行為から生じたゆとり時間は結果的に家庭に押し付けられるのであるが、こちらの受け入れ態勢が整っているはずが無い。父親は収入源の現状確保で子供に割ける時間など無いのが現状だ。連休にはキャンピングで家族そろってスキンシップを!などとは現実を知らない馬鹿な理想主義者たちが描いた絵空事だ。個人主義の尊重で、良くも悪くも機能していた隣近所のしがらみが無くなり、孤立した家庭内で、家事労働から解放されたこれまたゆとりの塊のママゴンと子供が顔を四六時中会わせる事となる。色気づいたが団体生活が不得意で彼女の出来ない息子。そして過干渉の母親に対して家庭内暴力が発生するというパターンだ。一方は悪同志が徒党を組んで友人へのゆすりたかり、他方は孤立して不登校、コンピューターゲームやメールに没頭する毎日となるのだが、自分の、世の中での存在感の希薄さが頂点となったその時、自己の存在を表現する爆発的行為が発生するわけだ。昨今枚挙にいとまの無いティーンエイジの恐ろしい犯罪は、ゆとりの拡大を消化しきれない現実社会の結果である。妻子も無く、父母兄弟との関係を断った、失うものが無いという最も危険な連中が続々増加している事を十分認識すべきだ。
こんな中、文部省が策定している新たな学習指導要綱では、週休完全二日制実施とともに授業時間を更に削減するらしい。放っておかれた家庭内で誰が勉強などするものか!世界一勉強しない日本の子供達。国家百年に禍根を残す文部省の愚策は救い様も無く、まだまだ続くのである。

「植物の生育条件」
窓辺に置いた植物が太陽の方を向いて伸びるのは太陽が好きだからではない。実は太陽光には植物の生育を止める作用があり、太陽の当たる窓側の面は伸びず、背面がどんどん伸びるので結果として太陽の方へ向いてしまうだけなのである。暗黒の室に置かれたもやしやウドは白くひょろひょろと長いだけだが、これを太陽の下で育てれば緑濃いどっしりとしたものになる。冬場によく枯らしてしまう観葉植物はひ弱と思いがちだが、本来これらが生育している熱帯のジャングルでは、落葉の一枚からでも発根して生育を始める様に生命力たくましい植物なのである。本来はしっかりとたくましく生育できるものが、おかれた環境によってかくも変わってしまう事は子供達の教育に対して示唆を与えるのである。戦後、父親も母親も朝星夜星で働き尽くめ、子供にかまっている時間もゆとりもなかった。悪たれをつく子供は、でも大きな犯罪に走る事は無かった。集団就職の子供達は夜も土日も働いて親方から技術を盗み、泣きながらもいつか自分で独立して天丼やカツ丼を死ぬほど食ってやるんだと努力研鑽を積み重ねた。本来若い工場労働者は給料を稼ぐ事以上に技術の研鑽が重要であるはずだ。にもかかわらず完全週休二日により、本来腕を磨く時期にいたずらにゴロゴロしていたり、ゲームセンターに通ったり、はてまた伝言ダイヤルなどで犯罪に走ったりと、こちらもゆとり政策が有意な若者の成長の芽を摘んでいるのである。そして、こちらの愚策の張本人は労働省。完全週休二日制は年寄りだけの特権とすべきなのである。

「IT産業と新技術」
閉塞感のある自動車や家電産業に相対し、IT産業が脚光を浴びている。然しこの分野は、ハードウエアが軽薄短小がゆえに産業界の裾野への波及効果が自動車産業の様に深くない。ハードに関しては台湾は韓国、中国に持って行かれてしまうのは目に見えている。日本経済のボトムアップに対する期待感はほどほどに。
いま、マグネが脚光を浴びつつある。ソニーのノートパソコン・バイオが断トツ売れているのは、ケースがマグネだからという事が大きな理由らしい。中身の機能は他社製と大して変わらないのに、パソコンも携帯電話の様にファッション性で売れ行きが決まる時代になった様だ。それにしても量販店で予約も受け付けず価格も言い値という信じられないこの現象は、我々装置産業にとって理解を超える垂涎の的である。二十一世紀の金属マグネシウム。重さはアルミの三分の二、リチウム含有のマグネは水にも浮く。金属が故リサイクル可。対ノイズ性、対衝撃性、何をとっても樹脂の代替として携帯電話を代表とするモバイル製品のケースとして最適の位置にある。家電リサイクル法はフォローの風だ。しかも何と言っても原料が海水から塩を採るのと同じ様に無尽蔵である事が資源貧乏国日本にとって有り難い。開発案件は山積しているが技術課題の解決に対しては古今日本が最も得意な分野、十八番。期待したい。

「カンボジア地雷撤去」
国際ニュースで地雷の被災による痛々しい子供の姿が映し出されるたびに心痛む。国連でも地雷撤去に大きな力を割いているようだが、何しろ埋設されている数が膨大な上に危険な撤去作業は短期間では出来ないので、こうしている間にもいたいけな無辜の子供が生命を失っているのである。日本でもカンボジア等に多大な費用を持って援助活動をしているが、本来この様な地雷を製造して商売して儲けた連中と国家が、この迷惑で危険な埋設物を自前で撤去すべきではないのかという疑問がいつでも湧いてくる。日本の援助活動の原資は我々が民間産業で得た対価に対する税金で賄われて居る。死の商人が得た対価とは本質的に異なっている。諸外国から文句ばかり言われている日本が、せめて片意地はって「作ったところが責任持って撤去して下さい」と言っても良かろうものだが、相手は冷戦当時の西・東の主要国、国連の常任理事国でもある。ちょっと相手が強すぎるのであろうか。
然し欧米の平和活動家とかグリーンピースとかが兵器輸出国をもっと弾劾しても良さそうなものを、人殺しより鯨殺し反対にご熱心なのは何とも不可思議なのである。

「東南アジア経済」
 タイの景気がバブル崩壊の前の状態に戻ってきた。二輪は土日返上の活況で、下請け部品産業も三直でこちらも土日返上だ。工場も増築開始、設備投資もペンディングになっていた案件が再浮上してきた。タイは宗教的、民族的葛藤が無いアジアでは珍しい国だ。欧米の植民地政策にもラオスをとかげの尻尾切りで手放し独立を確保した。国民の大多数は敬虔な仏教徒、そして国民の国王に対する信頼は圧倒的で、どんな政治的紛争も、それに伴う暴動も国王が出てくればたったの十分で解決してしまう、信じられない国情。ここを東洋のデトロイトにしてしまおうという話がある。二十一世紀の山田長政の出番だ。留意しよう。でこぼこではあるが、アジア経済は確実に回復基調にある。

「宦官の世界」
昔から国王・大名・政治家は常に多くの敵と相対し、四六時中、心の休まる時も無く、必然的に生き残れる者は精神的にも体力的にも強靭な人間であったもので、当然下半身の方も精力的であった事は言うまでもない。かくして英雄色を好む、という言葉が出来たわけだ。クリントンはうまく逃げたが、元大阪府知事は芸能界出身の悲しさか、まんまとはまってしまった。政治家になるには過去も現在も将来も身辺清らかな人間でないと、マスコミを始めとする外野がおさまらない様になった。政治家になるにはかつての中国清朝の宦官の様に、去勢牛(きんきり)の必要がありそうだ。ただ、実の無い宦官政治は清朝滅亡に拍車をかけたにすぎなかったのである。

「宇多田ヒカル」
二十数年前の、根暗な演歌歌手の元祖、藤圭子の子供だ。現在演歌歌手のベストワンは、石川さゆりで、アルバムの年間売り上げは約七万枚。他方宇多田ヒカルは八百万枚だ。そして、自分の歌う歌の作詞・作曲は彼女自身によるので、印税は全部自分の物だ。きっとお母さんがこれらで悔しい思いをしたのだろう。部品産業、装置産業、愚痴を言っているだけでは始まらない。二十%の価格削減に泣いていても始まらない。次の世代の子供達が、全部私の物!と言える様に、ともかく歴史をつなげて行こうと思う昨今なのです。

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