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世相

平成11年 夏

  • 1999年08月

「景気の下げ止まり」
 景気の下げ止まりと上向きへの転換を期待する昨今だ。先日同じ地域の商工会工業部会の会合に出席した折、各社の現況報告があった。暗い話ばかりだと想像したに相反し、会社始まって以来の大忙しで土日出勤残業毎日という金属加工の会社が二社あって呆然とした。液晶と半導体だそうだ。不景気不景気と書き立てるのはフェアじゃないとつくづく感じたものだ。

「関西ねじ活性化会議」
。税調委員長加藤氏の「今後ネジ関連企業の総てが生き残れることは到底考えられない・・・・」と、冷酷にもスパッと言い切ったその一節。これも鮮烈に思い出される。明暗相分ける記憶がよみがえるのだが、中小企業の経営者にとって今ほどその力量が問われる時代は無いだろう。かたやリストラ、かたや大繁盛、現実は苛酷で厳しい。

「コソボ紛争」
コソボ紛争もようやく終息の気配が見えてきた。モザイク国家がぼろぼろに崩れて行く最中に、二回ベオグラードと工業都市ニッシを訪問した経験があるが、チトーのおっさん(日本商社の現地駐在は親しみを込めてそう呼んでいたが、チトーはゴルフが嫌いでユーゴにはゴルフ場が無く駐在員の大きな楽しみの一つであるゴルフの出来ない恨みも込めてそう呼んでいた気がする)の、強力な指導力で何とかまとまっていたユーゴスラビア連邦は、その死後あっという間にばらばらに崩壊してしまった。中近東の文化的影響はあるが、やはりヨーロッパ色の濃い、マロニエの多い美しい街ベオグラードも大きく破壊されてしまったに違いない。セルビアと周辺国との確執は、気の遠くなる昔から二十一世紀の未来まで終わることなく続くものと思われる。それにしてもロシアのやり口は見事に変わらない。土壇場で軍を進駐させ、瀬戸際で本紛争当事者の既得権を確保した。経済は破綻してもかつての東の盟主としてのしたたかさは変わらない。一方の中国は、あまりに遠方であった為、大使館への誤爆という気の毒な結果しか残らなかった。

「統一地方選挙」
春の統一地方選挙、政党政治への諦め・見限りと、多少突飛でも変化を求める期待感が、東京・大阪の知事選出の結果として現れた。知事は一般選挙民からの直接選挙で選出されるので、民意が直接反映される。そこら辺を各政党は十分に認識してもらいたいものだ。

「国歌・国旗」
国歌・国旗にしてもいくつかの政党は制定にただ反対のみ。代案を出す訳でも無し、もう少し論議を重ねてとか言っているが、一体国際競技やオリンピックで日本はどんな旗を掲げてどんな曲を流したら良いというのだろうか。国際社内の中の常識線で物を考えてもらいたいものだ。戦後アメリカの統治下にあった沖縄が、琉球政府という暫定的な統治組織を組まざるを得ず、当然日の丸の掲揚も認められず、似ても似つかないこれも暫定的な旗を船舶に掲げざるを得なかった。外国のどこの港に行っても知名度の極めて乏しい琉球の旗を掲げる船舶への懐疑の目は厳しく、大変な苦労があった様だ。沖縄が日本に戻って良かったのか、良くなかったのかは別として、船舶に日の丸が掲げられる事が出来るようになった喜びのコメントを何かの本で読んだ記憶がある。かように国歌としてのアイデンティティを表示する国旗は大事であるというものを。

「サミット」
来年七月のサミットは沖縄県名護市が主会場に決まった。沖縄は古来、尚家という王族が支配していた独立国家だった。十七世紀まで鉄の伝来が無かった石垣島を中心とする八重山諸島は、戦争の無い平和な島々でもあった。日本の平安時代の風習の一部がまだ残ると言うが、変わるべき、変えるべき要因が無く、孤島の中で時の流れを刻んで来たに違いない。
これらの島々に繁栄をもたらしたものは中継貿易である。沖縄本島を中心にコンパスで円を描けば地理的優位さがはっきりと判るが、これは現在にも確実に当てはまる。この島嶼を無関税特恵地区にしたら、きっとハワイとグアムとサイパンと香港とシンガポールを全部ミックスした様なリゾート兼商業地区が出現するに違いない。トロピカルに憧れる寒い韓国からの観光客が、安い電化製品やカメラを求める中国・台湾・東南アジア諸国からの買い物ツアーが、ヨーロッパのブランド品とリゾートでの余暇を求める日本の観光客が大挙して押し寄せるに違いない。ラスベガスの様に公認カジノも開設すればもっと盛況になるだろう。沖縄は東京より台北の方が近い。週末には台湾の資産家達が安息と一攫千金を求めてやってくるに違いない。投資に目ざとい華僑の面々はこれら島々に積極投資するだろう。ここだけ法人税軽減の特恵を与えれば、かつての香港やシンガポールの様に多くの外資企業も進出するに違いない。軽工業も移転してくる事は請け合いだ。税金は消費税から取れば良い。サービスとかモノが動けば莫大な税収になる。現在は航空運賃と旅行費用が何故か高いので、サイパンやグアムにお株を取られてしまっているが、沖縄・八重山の珊瑚礁は世界有数な規模を誇る。わざわざ日付変更線を越えて遠方のハワイまで行く事も無い状況を作る事は十分に可能だ。宮古島の目の前の下地島には立派な飛行場(実際はパイロットの訓練センター)が半ば使われずに有る。名護の先の伊江島にも使われずにある飛行場があり、各地からのアクセスの下地は十分と見ているのだが、どうかろうか?

「空港」
空港と言えば、成田はもう完成を諦めた方がベターだろう。羽田に戻してくれたら利用者の一人としてどれ程有り難いかわからない。国際線・国内線を別々にするのも実は海外からのお客様に対しては不親切だ。フランクフルトからハノーバーへとか、上海から重慶へとか、行った事のある人だったらすぐわかる。
クアラルンプールのセパン新空港、マレーシア人のご自慢の種が又一つ出来た。サテライトに向かうシャトルは成田の物と似ているが、距離があるのでぐんぐんとスピードを上げて日本の物を凌駕する。出来る見込みがあるなら待つも良かろうが、このままではみっともない。我が成田はいつまでたっても未完成空港曲。

「マレーシア・タイ・韓国」
これら諸国の一部業種に景気回復が見られて来たが、最も景気の牽引力の強い自動車産業の本格的復活はまだ一・二年かかるだろう。ローンを組まないと高額品の購入が難しいお国柄ゆえ、金融機関の安定化がこのかぎを握る。従ってこれらの産業と密接なつながりの有る日本の諸工業も今が胸突き八丁だ。整理統合の荒波を乗り越える正念場がずうっと続く。

「EMOショー」
 今年五月に開催されたヨーロッパ地域最大の機械見本市の見学にパリまで行ってきた。ドイツ・フランス・イタリアと持ち回りで開催するが、イタリアは前回で、フランスは今回で最後になるらしい。次回からはドイツ・ハノーバーでのみの開催になる様だ。プレス機械に関してはイタリア,ドイツ、スイス、フランス、トルコ、スペイン等からの出品が多数会ったが、日本からはアマダのみ。工作機械の日本大軍団から見て対照的だったが、出品内容は昨年開催された日本の国際工作機械見本市と比べると大きな違いがあった。超高速打ち抜きプレス、サーボ駆動プレス、リニアモーター駆動プレスが無かったことだ。私は後者二機種の開発を持って今後のプレス機械がかなり様変わりすると考えているので、折り曲げ用ベンダーを除きこれらの開発がヨーロッパで遅れているのは今後の日本のメーカーの優位性が十分発揮できるのではないかと見た。
弊社の様な鍛造機械も本家ヨーロッパ市場へのアプローチが出来る隙間が出来つつあると認識しているが、CEマーキング(安全対策クリア商品の印)が現実の問題となってきた。事ヨーロッパでは安全と、リサイクルと、エコロジーは水戸黄門の葵の御紋入り印籠と同じだ。地球環境を考えれば自動車も多少高価になっても致し方ないとの民意の変化からすれば、ここに新たなビジネスチャンスも潜むと考えられるだろう。
通気口まで確認して、駅のコインロッカーをベビー用カプセルホテルに代用したちゃっかり若夫婦が出現した。こんな所にも商売のヒントがある様に思える。残念ながら私はホテル業で無いのでこの方面のビジネスには興味が無い。

「電子メール」
電子メールとラブロマンスをまさに今様のソースとスパイスで調理した映画「ユー・ガト・メール」。ニューヨークの街角で母から受け継いだ小さな子供向け絵本専門店を経営するヒロインと、電子メールで知り合ったヒーロー。フォックスという大規模量販書店が目の舞に店開きしたお陰で、彼女の店は廃業のやむなきに至ってしまう。日本でもよくある話だ。憎き量販店。か弱き彼女の心の悩みを電子メールで打ち明ける先は、まだ見ぬ心の恋人。実は憎きフォックス社の社長の息子だったのだ!エンディング、いつも敵として相対していた彼女は彼に心をゆだねる。「ドント、クライ(なくんじゃない)」抱き合う二人を高所から撮影するカメラは上方にパンニングして前方の遠景を写してゆく。そしてバックグラウンドミュージックは、あのオズの魔法使いの「サムホェアー、オーバー、ザ、レインボー」だ。そう、虹のかなたの向こうには、きっと良いことが待っている!ご健闘をお祈りします。

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